あらすじ　中国昆劇院　名華・張継青　上海昆劇団

あらすじ

昆劇は、14世紀元末に起こり、明朝の中期、蘇州に近い昆山の天才音楽家・魏良輔によって戯曲の集大成がなされ、さらに近代演劇としてのスタイルを確立した、600年の伝統を誇る中国舞台芸術の精華です。衣裳、身のこなし、音楽、文学性のいずれをとっても、まさに中国文化が育んできた美の極致と言うにふさわしく、中国が世界中で最も繁栄した黄金期と言われる17～18世紀、中国全土で盛んになり、古今の名作はすべて昆劇の俳優によって上演されました。
300余種に及ぶ中国伝統演劇のほとんどすべてが昆劇の要素を受け継いで発達しており、京劇もその例外ではありません。さらにわが国の芸能や日本舞踊、歌舞伎にもその影響がみられるといわれます。昆劇の魅力はまず、中国伝統演劇の中で最も繊細といわれる絶妙な演技にあり、厳しい訓練によって裏打ちされている。その素晴らしさが蘭の花に喩えられる昆劇は、「王者の香りあり」と言われ、新中国になって見事に奇跡的な復活を果たした。
この奇跡は上海に統いて北京、南京に起こり、"中国の国宝〃と呼ばれて中国伝統演劇を代表し、現在も活発な公演活動が行われています。1985年5月には「上海昆劇精英フェスティバル」が9夜にわたって38本を上演して大成功を収め、演目の豊富さと俳優の層の厚さを内外に広く印象づけた。

中国昆劇院＝江蘇省・南京

前身は1956年、蘇州で創設された「江蘇省昆劇団」で、1960年、同名の劇団が蘇州と南京に分かれ、南京の旗上げには張継青も参加した。1971年、南京の劇団は「江蘇省昆劇院」と改名後、文化大革命を経て、1978年、再スタートした。主要な俳優は張継青をはじめとして、姚継焜、董継浩ら、名前の一字に「継」の字を受け継いでいる。昆劇の代表作四百のうち、すでに百をレパートリーに加え、とくに「牡丹亭」と「朱買臣休妻」は1982年のイタリア公演以来、上演数が増え、年間60回を超えている。

　劇場用パンフpdf

昆劇の名華・張継青

祖父母が俳優という血筋に生まれた張継青は1952年、小学校４年で初舞台を踏み、梅蘭芳も師とした清朝末期の昆劇の名優・曽長生や龍彩雲の直伝によって才能を発揮し、早くも17歳で主役を演じた。18歳で江蘇省昆劇団に移り、兪振飛や兪錫侯ら巨匠の厳しい指導を受けた。兪錫侯は昆劇歌唱の正統派「葉派」を受け継ぐ唯一の人物であった。
天性の素質に加え、多くの師に恵まれた張継青は、まさに昆劇の正統の継承者と呼ぶにふさわしく、独自の芸風を今日に開花させました。張継青の演技について「その舞台はあでやかであり、ゆったりとして優雅であり、女体のかもし出す夢想がある。伝統的中国美人のエロチシズムというべきか」などの絶賛が寄せられているほか、昆劇の舞台にほとばしる「詩的パッション」の魅力を多くの人々が語っている。継青の演技は繊細を極め、時に激しく、観客のカタルシスを誘う。

作品：

「牡丹亭」―

宋の時代、杜麗娘という絶世の美女がいた。ある日、侍女の春香に誘われて、こっそり邸内の花園・牡丹亭に遊びに行く。烏さえずり、花香るのを見て心ときめかし、もの思いにふけるうち、うとうとまどろんでしまう。娘は夢の中、梅の木の下で素敵な若者と出会う。名は柳夢梅。二人は甘く楽しいひとときを過ごすが、娘は自分の思いを相手に伝えることができない。夢からさめて、娘はすっかりふさぎこんでしまう。花園に夢の名残りを求めてさまよい出るが、あの若者との逢瀬が訪れることはもはやなかった。
彼女は若者と出会った梅の木の下で切々と女心を歌う。「生きて恋人に会えないのなら、いっそ命絶え、この梅の木の下に眠りたい」娘はついに病気になり、やせ衰えていく。そして、自ら絵筆をとって鏡に向かい、自分の姿を絹布に描いて、自分が死んだ後、夢の中の恋人に思いを伝えようとする。仲秋のタ暮れ、ついに彼女はこの世を去る。ーー三年後、柳夢梅が牡丹亭にやってくる。彼も夢の中で会った娘を探していた。梅の木の近くで娘の絵姿を見つけ、呼びかけると、死んだ杜麗娘がこの世によみがえり、二人はめでたく結ばれる。

「朱買臣休妻」―

ときは漢の時代、エリート官僚の資格試験を目指す朱買臣は、生業の柴刈りはそっちのけ、勉強ばかりしている。妻の崔氏は、この貧乏生活に我慢ならず、いつも夫に悪態をつくが、朱買臣にはそんな妻もすこぶるいとおしい。そんな折、崔氏に再婚話が持ち込まれ、支度金は銀十両という。崔氏が朱買臣に迫って力づくで離縁状に拇印を押させると夫はショックのあまり気絶。だが、妻は銀十両を残して家を出てしまう。新しく嫁入った先は、妻を平気で殴ったりする粗野な職人(道化)。彼女は再び薄幸を嘆く身となった。そこへ前夫が試験に合格し、会稽太守に出世して故郷に錦を飾るという噂が聞こえてくる
---今日も泣きぬれた夢の中に、前夫との幸せの日々が美しく、せつなくよみがえり、その夫が自分を許し、供を従えてやってくる---目がさめると、そこは荒涼とした現実の世界。崔氏の心は一度に冷える。彼女は長官に出世した朱買臣に会って復縁を迫る。朱買臣は盆に入れた水をこぼし、この水を元にもどせば許そうと冷たくいう。彼女は地に這い、必死に水をすくい上げようとする。次第に狂っていく崔氏。舞台に悽愴の気がみなぎる。絶望の崔氏は入水して果てるのだが、至福の夢から狂気へと転じる場面で、張継青は女の情念を表出して繊細を極め、情緒纒綿たる耽美の世界をかもし出す。

「打虎・遊街」―

虎退治の武松は「水滸伝」の英雄である。武松は長兄の武太郎を探す旅の途中、景陽崗の山にさしかかる。ふもとに一軒の酒店があり、入口の貼り紙に「三杯飲んだら山を越えられない」と書いてある。酒店のおやじは「うちの酒は極上で酔いがよく回ります。その上、景陽崗には恐ろしい虎がいて、酔って山越えは剣呑、剣呑」という。武松は三杯どころかカメの酒を全部飲みほしてしまい、おやじが止めるのを振り切って山に登る。果たして猛虎が襲ってくるが、ここ一番と格闘の大立回り、ついに虎を殴り倒し、町中をひき回す。
ここで武松は長兄の武太郎と再会を果たすのであるが、この舞台のもう一つの見どころは武太郎の"矮歩"である。彼は背丈が常人の腰あたりまでしかない小人だが、「弟の拳法は俺が教えた」と珍妙な拳法を披露する。膝を折りたたんだまま演ずる昆劇特有の武技である。

上海昆劇団

上海昆劇団は1978年に創立された。その前身は、上海戯曲学校昆劇俳優学科、音楽学科の第1回の優秀な卒業生が主要メンバーとなって1961年に発足した「上海青年京昆劇団」で、梅蘭芳と舞台を共にした昆劇の名優兪振飛はじめ、昆劇・京劇界の諸先輩による指導のもと、数々の名作を復活しました。1978年に「上海昆劇団」と改称、兪振飛を団長として新たなスタートを切り、活発な公演活動を続け、現在に至っています。
劇団創立以来、百花斉放、推陣出新の方針による指導のもと、同団が復活、整理、改編した伝統演目は「白蛇伝」、「牡丹亭」、「琵琶記」をはじめ50余りに及びます。1985年初め、上海昆劇団は新しく上級グループを設立、兪振飛が名誉団長に、華文漪が団長に就任しました。
1987年第４回梅花賞(梅蘭芳を記念した中国の代表的演劇賞で前年に最も活躍した俳優に贈られる)では、計鎭華など6名が受賞しています。なお、表現力抜群の梁谷音は、第3回梅花賞を受賞しています。昆劇最高の道化役である劉異龍、また演奏では笛王と称される顧兆琪もこの劇団を代表する国宝級のメンバーです。

　

作品：

長生殿ーー

この戯曲は清代初期の戯曲文学界の天才洪昇(1645--1704)が、わが国でも、平安時代の才女紫式部や清少納言に影響を与えた白楽天の「長恨歌」の中の名句「……7月7日、長生殿……」より題目をとり、さらに唐時代の記録や李白、杜甫の詩編等の中から、玄宗と楊貴妃の美しい幾多のエピソードを集めて著した上下2巻50幕より成る大長編戯曲の傑作で、当時より流行し、最も人々に知られていた一大史劇です。